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zoom RSS 【明治の50冊】(22)樋口一葉「たけくらべ」 雅俗折衷体で思春期の葛藤

<<   作成日時 : 2018/12/01 22:36   >>

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 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。

 《廻(まわ)れば大門(おおもん)の見返り柳(やなぎ)いと長けれど、お歯ぐろ溝(どぶ)に燈火(ともしび)うつる三階の騒ぎも手に取る如く》
 吉原遊廓正門の外にある見返り柳までは、ぐるっと回って距離があるけれども、遊郭を囲むお歯ぐろ溝を照らす妓楼の騒ぎは、手に取るように分かる−。吉原に隣接する通称「大音寺前」(下谷龍泉寺町、現在の東京都台東区竜泉)の描写から、「たけくらべ」は書き起こされる。
画像
台東区立一葉記念館所蔵の「たけくらべ」未定稿。一葉は数千枚ともいわれる草稿を残しており、書くことへの並外れた情熱がうかがえる

 千束稲荷(せんぞくいなり)神社の夏祭りから、冬の鷲(おおとり)神社の酉(とり)の市までの3カ月あまり。吉原の年中行事や季節の移ろいにそって、少年少女が大人の社会へ踏み出していく直前の時間をとらえた不朽の名作だ。
 全盛の花魁(おいらん)である姉の威光を背景に、仲間内で女王のように振る舞う美登利(14歳)は、対立するグループに属する、寺の跡取りの信如(15歳)にほのかな思いを寄せる。
 雅俗折衷の擬古文(ぎこぶん)は、掛詞や引用、それとなく差し挟まれた俗謡、廓(くるわ)帰りの若者の評言などから、吉原という特殊な町の価値観、風俗を重層的に描き出す。一葉は日本文学史上、最後の擬古文による作家といわれている。言文一致体へ移行していく時代にあって、伝統的な古典の素養をもとに、江戸時代の西鶴の俗文や明治の話し言葉、女性的な感覚を取り入れて、雅文、俗文を織り交ぜた雅俗折衷体を編み出した。

 相模女子大名誉教授の戸松泉さんは、「情報量が多く、凝縮された言葉の背後にあるものが、読み手によっていろいろに想像できる。読者が参画できる余白が一葉作品の魅力」と話す。
 一葉は明治26年7月から9カ月間、「たけくらべ」の舞台となった龍泉寺町に住み、母と妹とともに子供相手に雑貨や駄菓子を売る店を営んだ。ここまで零落したという意識があったのだろう。日記の一冊一冊にタイトルを付けており、この期間には「塵(ちり)之中」という題を付けている。「あの辺では玉のような性質の女の子が吉原で全盛になるのが、一番の親孝行だと思っているのよ」と感慨深そうに言っていたという証言も残っている。
 美登利はまさしく、娼妓となることが運命づけられた少女だった。性を売る職業の実態を理解するにつれ、「大人に成るは厭(いや)な事」と嘆くようになる。語り手は美登利に共振し、「顕微鏡でのぞくように」(戸松さん)その心の動きを眺めている。美登利の「成長」の契機が、初潮を迎えたためか、客を取る「初店(はつみせ)」があったからなのか、今も議論が分かれるところだ。
 「たけくらべ」は同人誌『文学界』に28年1月から1年かけて断続的に連載。そののち雑誌『文芸倶楽部』に一括再掲載された。それが森鴎外、幸田露伴、斎藤緑雨の3人による文芸時評で絶賛され、一葉の文名は決定的になった。

 句点がほとんどなく、読点のみで連綿と続く行文は、現代では読むのに難儀する「古文」だ。戸松さんは、授業でまず朗読を聞かせると、話し言葉が多くて分かりやすいという学生の感想があるという。岩波、新潮などから文庫本が出ており、集英社文庫では、句点を補い、会話にカギ括弧をつけるなど、読みやすく編集されている。
 ある霜の朝、家の格子門にさされていた「水仙の作り花」を美登利が愛(め)でる場面で作品は終わる。誰が造花をさし入れたのか。信如は美登利のことを思っていたのだろうか。
 謎の答えは、作品の中だけにある。子供時代への郷愁と、過酷な運命にとらわれた美登利という少女への愛惜と…。繰り返し読みたくなる理由だろう。(永井優子)
 次回は23日『若菜集』(島崎藤村)です。
【プロフィル】樋口一葉
 ひぐち・いちよう 明治5(1872)年、東京生まれ。本名・奈津。父は東京府庁、警視庁などに勤める中流家庭に育つ。小学校高等科第4級を卒業後、中島歌子の歌塾「萩の舎」で和歌、古典を学ぶ。父の死後、戸主として文筆で生計を立てることを志し、作家、半井桃水(なからい・とうすい)に小説の手ほどきを受け、25年「闇桜(やみざくら)」を発表。晩年の1年あまりの間に「大つごもり」「たけくらべ」「にごりえ」「十三夜」などを次々と発表。すぐれた日記を残した。29年、肺結核のため24歳で死去。

*2018.07.16 産経新聞より
(https://www.sankei.com/life/news/180716/lif1807160017-n1.html)

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