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zoom RSS 【明治の50冊】(18)志賀重昂「日本風景論」風土によるナショナリズム喚起

<<   作成日時 : 2018/10/27 23:06   >>

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 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。

 日本の風景は世界でも群を抜いて美しい、それはなぜか−。地理学者の志賀重昂(しげたか)が明治27(1894)年に刊行した『日本風景論』は、外国と比較した日本の景観の特徴やその美を科学的視点を取り入れて称揚し、日本のナショナリズム論に「風景」を導入した記念碑的著作だ。
 志賀はまず、日本の風景が持つ美しさを「瀟洒(しょうしゃ)」「美」「跌宕(てっとう)(のびのびとおおらかなこと)」の3つに分類。詩情あふれる瀟洒の粋として秋を、花や草木の色鮮やかな美の精髄としては春を置く。跌宕は説明がなく分かりづらいが、例として北海道沿岸の断崖に砕ける波濤(はとう)や阿蘇のカルデラ、太平洋上に屹立(きつりつ)する筍(たけのこ)岩などを挙げているところからすると、雄大、荘厳といった概念だろう。
 そして、この美しい日本の景観がなぜ生まれたのかについて、「気候、海流の多変多様なる事」「水蒸気の多量なる事」「火山岩の多々なる事」「流水の浸蝕(しんしょく)激烈なる事」の4要因を挙げて説明を行う。特に火山岩の項目には熱が入っており、「日本国や、実に北来南来二大火山力の衝突点に当り、火山の存在するもの無慮百七十個、而して全国表土の五分の一は火山岩より成る、これ日本の景物をして洵美(じゅんび)ならしめたる主源因」として各地の火山を列挙。「けだし日本風景の粋は火山及び火山岩にあり」と激賞している。
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岩波文庫版『日本風景論』

 こうした近代自然科学の知識を随所にちりばめつつ、漢文脈の美文で日本風景の美を朗々とうたいあげ、登山を奨励した同書は大きな反響を呼んだ。初版刊行後9年で15版を重ねる大ベストセラーに。昭和12年刊の岩波文庫版に解説を寄せた日本山岳会創設者で紀行作家の小島烏水(うすい)は、この本が当時与えた影響について「『風景論』が出てから、従来の近江八景式や、日本三景式の如(ごと)き、古典的風景美は、殆(ほとん)ど一蹴された感がある」と述懐する。平成26年には講談社学術文庫で新装版が出るなど、今も読み継がれている。

 刊行は、日清戦争開戦の年だった。志賀は雑誌『日本人』の主筆で、政府が進める欧化政策を批判した「国粋保存主義」の主唱者として知られる。『風景論』は、日本風景および日本人の精神性の優秀さを諸外国と比較して説く、ナショナリズム鼓舞の思想書という色彩も帯びている。
 志賀を中心とした明治の保守主義を研究する政治思想史家の荻原隆・名古屋学院大教授は「国粋主義者として、風景に着目したこと自体はとてもよい。日本は中緯度に位置する島国で、気候・風土の穏やかさという点では世界でも希有(けう)なのは確か。こぢんまりとして優しく親しみやすいこの風景を、他の国粋主義者たちはなぜ誇らなかったのか不思議」と評価しつつ、同書を「重要な失敗作」と位置づける。
 引き合いに出される風景は、高山や火山、奇岩など日常風景から大きく外れ、異境的で雄大な印象を与えるものが多い。「志賀は本質的には国粋主義者でなく英米崇拝者。そのため小さく箱庭的な日本の典型的風景をよしとせず、かなり無理をして西洋的で壮大な風景を拾い出そうとした」。だから温和な自然や、そこで育まれた激しい民族の興亡がない穏やかな歴史といった日本の風土が持つ真の良さに目が向かず、せっかくの着眼を生かせなかった、と荻原教授は指摘する。
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志賀重昂

 昭和期の国粋主義とは違い、天皇を絶対化する国体論の色はない。穏やかで平和な伝統を掲げ、侵略や植民地主義といった西洋近代の問題点を補正する普遍性を持った日本的保守主義が、風景論から誕生する可能性はあったのかもしれない。明治中期、日本ナショナリズムの勃興期に現れたこの本は、そんなことも考えさせてくれる。(磨井慎吾)
 次回は18日『代表的日本人』(内村鑑三)です。
【プロフィル】志賀重昂(しが・しげたか) 文久3(1863)年、三河国(現・愛知県)岡崎藩士の家に生まれる。札幌農学校卒。明治19年、海軍練習艦に便乗して南太平洋を巡回、帰国後『南洋時事』を発表して頭角を現す。21年、三宅雪嶺らと政教社を設立して雑誌『日本人』を創刊。国粋保存主義を唱え対外硬論を展開する。その後衆議院議員を務めたほか、地理学者、世界旅行家として講演や著述で活動。昭和2(1927)年、死去。

*2018.06.04 産経新聞より
(http://www.sankei.com/life/news/180604/lif1806040013-n1.html)

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