【明治の50冊】番外編 エルウィン・ベルツ『ベルツの日記』

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  ■異邦人の透徹したまなざし  4月上旬、入学式前の東京大学本郷キャンパス(東京都文京区)は閑散としていた。ほぼ満開の桜を眺めながら、夏目漱石の『三四郎』(新潮文庫)の記述を手がかりに歩いていると、その銅像は見…

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【明治の50冊】番外編 陸奥宗光『蹇蹇録』 国益を見据えた外交記録

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  老舗料亭は歴史の目撃者になることがある。平成30年12月、天才棋士の羽生善治九段が27年ぶりに無冠に陥った対局場所の春帆楼(しゅんぱんろう)(山口県下関市)は、日清戦争(明治27~28年)の講和会議の舞台でもあ…

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【明治の50冊】(50)西田幾多郎『善の研究』 苦悩する旧制高生必読の書

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  『善の研究』は明治44(1911)年、弘道館という出版社から刊行された。西田幾多郎は40歳。元となったのは第四高等学校教授時代にしたためた講義草稿や雑誌論文で、「純粋経験」「実在」「善」「宗教」の4編からなる。…

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【明治の50冊】(49)谷崎潤一郎『秘密』 都市の記号で綴る日常の異界

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  現実をありのままに描こうとする自然主義文学の隆盛にあらがうようにして、谷崎潤一郎は奇抜な設定を用いた耽美(たんび)的な小説を相次ぎ送り出す。明治44(1911)年、総合雑誌「中央公論」11月号に掲載された『秘密…

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【明治の50冊】(48)石川啄木『一握の砂』 人生の事象詠んだ国民的歌集

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  「いのちなき砂のかなしさよ/さらさらと/握れば指のあひだより落つ」  「不来方(こずかた)のお城の草に寝ころびて/空に吸はれし/十五の心」  教科書ではじめて石川啄木に接したという人は多いだろう。息苦し…

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【明治の50冊】(46)長塚節『土』 貧農の世界、徹底した描写

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  歌人、小説家の長塚節が渾身(こんしん)の思いでつづった長編小説『土』。関東平野東部を流れる鬼怒川べりの農村を舞台に、小作人・勘次一家の貧しい生活と取り巻く自然、人、風俗などを描き、明治43(1910)年、東京朝…

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【明治の50冊】(46)永井荷風『ふらんす物語』 富国強兵もどこ吹く風

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  〈遥(はる)か空のはずれ、白い夏雲の動くあたりに突然エイフェル塔が見えた。汽車の窓の下には青い一帯の河水(かすい)が如何(いか)にも静(しずか)に流れている〉  憧れのフランスに着いた場面からつづられる「ふら…

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【明治の50冊】(45)森鴎外『ヰタ・セクスアリス』 医師視点で描く「性欲の自伝」

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  ひときわ目をひくカタカナの題名は、ラテン語で「性欲的生活」を意味する。明治42(1909)年7月、文芸雑誌「スバル」に発表された文豪・森鴎外の小説『ヰタ(ウィタ)・セクスアリス』。幼少期から青年期に至る性的体験…

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【明治の50冊】(44)北原白秋『邪宗門』 並外れた語彙、感覚を言語化

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  詩や短歌、童謡などさまざまなジャンルで数多くの名作を残した北原白秋。24歳の時に初めて刊行したのが詩集『邪宗門』(明治42年刊)だ。 『邪宗門』(初版、易風社、(公財)北原白秋生家記念財団提供)  われは…

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【明治の50冊】(43)夏目漱石『三四郎』 色あせない青春小説の古典

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  地方から上京した純朴な若者が東京の喧噪(けんそう)に驚き、孤独を感じる。そんなとき出会った都会的な女性に強く心ひかれ…。明治の文豪、夏目漱石が明治41年、朝日新聞に連載した『三四郎(さんしろう)』は、主人公・小…

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【明治の50冊】(42)田山花袋『蒲団』 私小説へ連なる「大胆な告白」

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  家庭もあり分別もあるはずの中年作家が、若い女弟子に恋をして苦しみもだえる-。田山花袋が実体験をもとに紡いだ『蒲団(ふとん)』は、明治40(1907)年に文芸雑誌「新小説」誌上で発表された。有名作家の手による赤裸…

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【明治の50冊】(41)島崎藤村『破戒』 絡み合う自我の苦悩と社会

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  日露戦争勝利の余韻いまだ冷めやらぬ明治39(1906)年春、自費出版された一冊の長編小説が文壇に大きな衝撃を与えた。文豪、島崎藤村の代表作『破戒』は、出自の秘密を抱えた青年の自我の苦悩を社会問題と絡めながら鋭く…

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【明治の50冊】(40)岡倉天心『茶の本』 平和の精神と輝く気概 

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  2016年、世界の名作が採用される英国のペンギン・ブックス双書に『茶の本』は加えられた。欧米においても、いまなおその価値が失われていない証しだろう。本書は米国ボストン美術館中国・日本美術部長を務めていた岡倉天心…

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【明治の50冊】(39)夏目漱石『坊っちゃん』 無鉄砲ぶりに現代人も憧れ

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  デビュー小説『吾輩は猫である』の連載中、夏目漱石は矢継ぎ早に新作も世に送り出す。明治39年4月に『吾輩-』と同じく俳句雑誌「ホトトギス」に発表した『坊っちゃん』もその一つ。正義感あふれる新任教師の姿を軽快なユー…

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【明治の50冊】(38)夏目漱石『吾輩は猫である』 自身も対象に痛快文明批評

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  〈吾輩は猫である。名前はまだ無い〉。そんな有名な書き出しで知られる文豪・夏目漱石の処女小説『吾輩は猫である』は、明治38(1905)年から39年にかけて俳句雑誌「ホトトギス」で連載された。人間の生態を「猫の目」…

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【明治の50冊】(37)北沢楽天『東京パック』 日本の大衆漫画雑誌の原点

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  世界からも注目される漫画文化を長年育んできた漫画雑誌。その先駆けといえるのが、日本で初めてのカラー漫画雑誌「東京パック」だ。主筆は「近代日本漫画の祖」と呼ばれる北沢楽天。日刊紙「時事新報」の漫画記者としても活躍…

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【明治の50冊】(36)上田敏『海潮音』 原文の音楽性まで訳しきる

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  訳詩集『海潮音』は日露戦争が終結した明治38年、東京の本郷書院から刊行された。ベルレーヌ、ボードレール、マラルメ(いずれも仏)ら近代ヨーロッパの詩人29人の57編を収める。 日本近代文学館による初版復刻版(昭…

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【明治の50冊】(35)『怪談』小泉八雲 魂込めた再話文学の傑作

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  「耳なし芳一」「ろくろ首」「むじな(のっぺらぼう)」「雪女」…。いずれも怪談として日本人になじみ深い作品だろう。もとは古典、民話、伝承にあったこれらの話に文学としての魂を吹き込み、読み継がれるきっかけを作ったの…

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【明治の50冊】(34)村井弦斎『食道楽』 食生活変えたベストセラー

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  現代の書店に足を運ぶと、食をテーマにした小説や漫画が所狭しと並ぶ。その先駆けといえる作品が、明治時代のジャーナリスト、村井弦斎(げんさい)の小説『食(しょく)道楽』だ。同作は当時のベストセラー小説となり、明治期…

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【明治の50冊】(33)正岡子規『病牀六尺』 病を楽しみ国の未来思う

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  俳句や短歌、文章の革新運動を進めた正岡子規は脊椎カリエスに侵され、34歳の若さで世を去った。その最晩年の随筆『病牀(びょうしょう)六尺』は、明治35(1902)年の5月5日から亡くなる2日前の9月17日まで計1…

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【明治の50冊】(32)与謝野晶子『みだれ髪』 強い自己肯定が生きる力に

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  「その子二十(はたち)櫛(くし)にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな」  「やは肌のあつき血汐(ちしほ)にふれも見でさびしからずや道を説く君」  与謝野晶子の第一歌集『みだれ髪』は、明治34年8月、明…

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【明治の50冊】(31)幸徳秋水『廿世紀之怪物帝国主義』 「忘れさせられた」先進性

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  21世紀を生きる現代人から見れば、19世紀後半から20世紀前半に世界中を覆った「帝国主義」を否定することはたやすい。しかし、この思想が当たり前とされた時代に、その問題点を論理的に批判したのが思想家、幸徳秋水の第…

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【明治の50冊】(30)新渡戸稲造『武士道』「日本人とは」に答え続けて

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  「太平洋の架け橋とならん」と、米国のジョンズ・ホプキンズ大学に私費留学し、経済、農政、法律、英文学など幅広く学んでいた新渡戸稲造は1887(明治20)年、明治政府より札幌農学校助教授に任じられると同時にドイツ留…

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【明治の50冊】(29)泉鏡花『高野聖』 近代化を相対的に捉えた傑作

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  当代一の人気作家、尾崎紅葉(こうよう)に師事していた泉鏡花(きょうか)が「夜行巡査」「外科室」で脚光を浴び、新進作家の仲間入りを果たしたのが明治28(1895)年。「高野聖(こうやひじり)」はその5年後、鏡花2…

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【明治の50冊】(28)横山源之助『日本の下層社会』 緻密な取材で示す貧困の構図

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  〈東京市十五区、戸数二十九万八千、現在人口百三十六万余(中略)多数は生活に如意ならざる下層の階級に属す〉  明治32年に刊行された『日本の下層社会』は、そう書き出される。巨大な建物が並び、華やかに栄える東京だ…

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【明治の50冊】(27)福澤諭吉『福翁自伝』 希代の啓蒙家誕生の軌跡

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  近代日本を代表する啓蒙(けいもう)思想家、福澤諭吉が晩年に自らの生涯を口述筆記させたのが、明治32(1899)年刊行の『福翁自伝』だ。封建社会から近代国家に向かう激動期を思想的にリードした当人による回想は、自伝…

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【明治の50冊】(26)正岡子規『歌よみに与ふる書』 心の叫びと実景、大衆短歌に道

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  美術のスケッチを手本にした「写生」を説いて俳句革新を推し進めた正岡子規は、やがて短歌の改革にも乗り出す。明治31年2月から3月にかけて、社員として筆をふるっていた新聞「日本」に発表した『歌よみに与ふる書』はその…

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【明治の50冊】(25)勝海舟『氷川清話』 痛快な武勇伝、時局批判も痛烈

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  波乱に満ちた幕末の動乱を当事者の口から聞けるのは痛快だ。ましてや語り手は、日本海軍の創始者にして、江戸城無血開城の立役者である勝海舟。維新から30年を経て、自身の来歴や人物評など縦横無尽に語った時事談話集『氷川…

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【明治の50冊】(24)国木田独歩『武蔵野』 郷愁誘う自然美の描写

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  今年没後110年の国木田独歩。浪漫主義の小説、随筆、詩的散文ともされる独歩の代表作「武蔵野」は、明治31年、雑誌『国民之友』で発表後、34年刊行の第一小説集に収録、小説集のタイトルにもなった。 国木田独歩(国…

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【明治の50冊】(23)島崎藤村「若菜集」共感呼ぶ恋愛への情熱

 明治150年にあたる平成30年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。  《まだあげ初めし前髪の/林檎(りんご)のもとに見えしとき/前にさしたる花櫛(はなぐし)の/花ある君と思ひけり/後略》  島崎藤村の「初恋」の一節である。日本の近代詩歌の中でもっとも愛される作品かもしれない。昭…

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