ロンドンオリンピックがついに開幕しました。日本は、男女のサッカーが、幸先の良いスタートを切りました。特に、勝って当然の女子に比べ、男子は優勝候補のスペインを撃破するという大金星、「グラスゴーの軌跡」と世界中に驚きと称賛をもたらしています。この後も気を緩めずに、検討してほしいものです。16年前のアトランタオリンピックでは、ブラジルを初戦で破るという「マイアミの軌跡」を起こしましたが、結局予選リーグで敗退しています。その失敗は繰り返さないでほしいものです。
さて、毎回オリンピックになると思いだされる日本人選手がおります。その名は円谷幸吉。1964年、東京オリンピックのマラソン銅メダリストです。戦前の孫基禎らを別にすれば、日本人初のマラソンでのメダル獲得でした。そして、円谷選手は次にメキシコオリンピックでのさらなる活躍が期待されていましたが、1968年正月明けに自殺するという、痛ましい結末を迎えてしまいました。
自殺の原因は、ケガに苦しみながら、プレッシャーに押しつぶされてしまった、といわれています。加えて、自衛隊体育学校の上司から、結婚話を結果的に破談にされてしまったという、プライベートの問題もあったようです。
ミュンヘンオリンピックの開催される1972年、女性フォークデュオ、ピンクピクルスによって、その死をテーマにした「一人の道」が、リリースされます。円谷選手が残した遺書から着想したその内容は、何とも物悲しいものになっています。ただ一つ気になるのは、歌の中では自分のために走っているとしていますが、円谷選手は思いっきり日本を、日の丸を背負っていたと思います。
オリンピックソングといえば御大、三波春夫先生の「東京五輪音頭」やトワ・エ・モワの力強く、さわやかな歌唱が光る「虹と雪のバラード」などが有名です。
しかし、この「一人の道」は、華やかなオリンピックの影で消えていった命の記憶を、いつまでも留めておいてくれる名曲といえるでしょう。
遺書の全文
父上様母上様 三日とろろ美味しうございました。干し柿 もちも美味しうございました。
敏雄兄姉上様 おすし美味しうございました。
勝美兄姉上様 ブドウ酒 リンゴ美味しうございました。
巌兄姉上様 しそめし 南ばんづけ美味しうございました。
喜久造兄姉上様 ブドウ液 養命酒美味しうございました。又いつも洗濯ありがとうございました。
幸造兄姉上様 往復車に便乗さして戴き有難とうございました。モンゴいか美味しうございました。
正男兄姉上様お気を煩わして大変申し訳ありませんでした。
幸雄君、秀雄君、幹雄君、敏子ちゃん、ひで子ちゃん、
良介君、敬久君、みよ子ちゃん、ゆき江ちゃん、
光江ちゃん、彰君、芳幸君、恵子ちゃん、
幸栄君、裕ちゃん、キーちゃん、正嗣君、
立派な人になってください。
父上様母上様 幸吉は、もうすっかり疲れ切ってしまって走れません。
何卒 お許し下さい。
気が休まる事なく御苦労、御心配をお掛け致し申し訳ありません。
幸吉は父母上様の側で暮しとうございました。
"【私的昭和名曲撰】第16回「一人の道」~ピンク・ピクルス"へのコメントを書く