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zoom RSS 【明治の50冊】(11)北村透谷「楚囚之詩」 近代的自我と孤独の発見

<<   作成日時 : 2018/09/04 12:13   >>

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 明治150年にあたる今年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。

 大日本帝国憲法が発布された明治22(1889)年に発表された「楚囚之詩(そしゅうのし)」は16節、342行からなる長編詩である。うたわれているのは、政治犯として恋人、同志とともに獄舎に入れられた男の孤独な回想・空想・懊悩(おうのう)だ。「楚囚」とは中国の春秋時代、楚の鐘儀(しょうぎ)が晋に捕らえられた後も、自国の冠をつけていたという故事から、他国に捕らえられ望郷の思いをいだく囚人を意味する。北村透谷は21歳。これが処女作となる。
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北村透谷(小田原市立図書館所蔵)

 発表の7年前に外山正一らの「新体詩抄」が発表されてはいたが、詩といえば漢詩であり、はたまた七五調に支配された和歌か俳句であった時代に、「新しい思想は新しい器に」といわんばかりに、文語自由詩形式で書かれた。「自序」にこう記している。
 《元より是(これ)は吾(わが)国語の所謂(いわゆる)歌でも詩でもありませぬ。寧(むし)ろ小説に似て居るのです。左(さ)れど、是れでも詩です、余は此(この)様(よう)にして余の詩を作り始めませう》
 「注目すべきは、自分を見つめ続けた結果、透谷が近代的自我とそれを表現するための詩形を発見したことでしょう」と透谷研究で知られる三重大教授の尾西康充さんは指摘する。

 《暗さ物憂さにも余は感情を失ひて/今は唯(た)だ膝を組む事のみ知りぬ、/罪も望も、世界も星辰(せいしん)も皆尽きて、/余にはあらゆる者皆、…無に帰して/たゞ寂寥、…微(かす)かなる呼吸》 (第10節から抜粋)
 明治維新からわずか22年で、透谷の表現は、現代詩といえる域にまで到達していた。驚嘆を禁じ得ない。近代的自我の発見とは孤独の発見でもある。透谷は5年後、縊死(いし)を遂げる。壮絶な孤独感が、それを十分に予感させる。
 詩の背景には、自由民権運動の仲間を裏切ったという自責の念があった。父は佐幕の小田原藩士。旧幕府側の人間が中心を占めたジャーナリズムと同様、藩閥政府の進める国づくりに懐疑的だった。早熟で自由民権運動の高揚に刺激されて13歳にして政治家を志し、演説の稽古を始めた。15歳で東京専門学校(現早稲田大)政治学科に入学、多摩の民権運動家と親交を結び、藩閥政府が置き去りにした人々の貧しい生活を見て回った。
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北村透谷は泰明小学校に学んだ。学校前には「島崎藤村 北村透谷 幼き日 ここに学ぶ」の石碑がある=東京都中央区

 ところが17歳のとき、朝鮮独立党支援のための資金を強盗によって調達しようとする計画に誘われ、懊悩のすえ運動から離脱した。その直後、計画は外部に漏れ、透谷を誘った友人は禁錮6年の刑に処せられる。

 離脱後は、「暗黒の一年」を過ごし、武力闘争から文学によって社会を撃つ方向に舵を切る。民権運動家の娘で、妻となるミナに感化されて入信したキリスト教、バイロン、シェークスピア、ドストエフスキーらの作品が糧となった。自分の思想や観念をどういう形で表現するか、透谷はもがきにもがき、「楚囚之詩」を書き上げる。こうして生まれた詩が現代詩の出発点となり、島崎藤村の「若菜集」へとつながってゆく。
 「楚囚之詩」は、昭和40年代前半、全共闘運動が挫折したころに脚光を浴びた。政治運動に挫折してもなお独自の闘いを続けた透谷への共感があったからだろう。
 そして、この詩は現代を生きる我々にも問いかける。尾西さんはいう。「透谷のころに比べれば、我々は自由な時代を生きていると思い込んでいます。でも、本当に自由なのか。じつは何かに囚(とら)われているのではないか。真摯(しんし)に読めば、そう自分に問いかけるきっかけになると思います」 (桑原聡)
 次回は4月2日『舞姫』(森鴎外)です。
【プロフィル】北村透谷
 きたむら・とうこく 明治元(1868)年、神奈川県生まれ。本名・門太郎。22年に長編詩「楚囚之詩」、24年に劇詩「蓬莱曲」を自費出版。その後、主に日本初の本格的女性誌とされる「女学雑誌」で「厭世(えんせい)詩家と女性」など数多くの評論を発表。26年に島崎藤村らと「文学界」を創刊して浪漫主義文学運動を主導したものの精神に変調をきたし、27年、東京・芝の自宅で縊死(いし)した。


*2018.03.26 産経新聞より
(https://www.sankei.com/life/news/180326/lif1803260011-n1.html)

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