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zoom RSS 【明治の50冊】(10)大槻文彦「言海」 独力で編んだ普通語の総体

<<   作成日時 : 2018/09/01 23:49   >>

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 明治150年にあたる今年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。

 この国で普通に使われている言葉を集め、説明し尽くす−。日本で最初のそんな近代的国語辞典『言海(げんかい)』は、明治22年に4分冊の刊行が始まり、24年に完結した。国語学者の大槻文彦が独力で編んだ労作は後の辞書の範となる。
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4分冊で出された『言海』と、その合冊本 (一関市博物館提供)

 文部省に勤めていた大槻が国語辞書の編纂(へんさん)を命じられたのは29歳のとき。輸入された英語辞書の作りを研究し、街中で耳にした言葉は手帳に書きとめる。こうした地道な努力の末、17年かけて『言海』は完成した。
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大槻文彦(一関市博物館提供)

 近代国家に向け、法や議会の整備が急ピッチで進んだ時期。ただ、言葉はまだ文語と口語の区別もあいまいで、標準語の定義も定まっていなかった。国語を体系化することへの使命感が大槻を動かした。作家の高田宏さんは、大槻の生涯を描く『言葉の海へ』で〈一国の辞書の成立は、国家意識あるいは民族意識の確立と結ぶものである。明治国家にとっての、そういう辞書が『言海』であった〉と記している。

《此書ハ、日本普通語ノ辞書ナリ》。巻頭でそう宣言する通り、学術専門用語や固有名詞を排し、日常生活で使われるものを中心に3万9103語を収録。それぞれに語釈(意味)や発音、品詞、語源などを添え、当時一般的だった「いろは」順ではなく五十音順に並べた。国文法を概説する「語法指南」も収めている。
 『三省堂国語辞典』編集委員を務める飯間浩明さん(50)は「辞書といっても、当時はどんな字を書くか調べるときに使う節用集や古語用例集が中心。そんな中、大槻はこの国で普通に使われている言葉を集め、説明し尽くし、総体としてどんな姿をしているかを明らかにした」と語る。
 説明文はリズムの良い漢文調で、動植物の項目はとくに味わい深い。有名なのが「猫」だ。〈形、虎ニ似テ、二尺ニ足ラズ〉。体の大きさに加え〈其(その)睛(ひとみ)、朝ハ円ク、次第ニ縮ミテ、正午ハ針ノ如ク〉と瞳(ひとみ)の様子まで描写。〈又能(よ)ク鼠(ねずみ)ヲ捕フレバ畜(か)フ、然レドモ、窃盗ノ性アリ〉という猫好きなら異議を唱えたくなりそうな記述もある。実際、芥川龍之介は随筆で〈(猫を)「窃盗ノ性アリ」と云うならば、犬は風俗壊乱の性あり〉とかみついている。

 大型の一冊本に続き、中型と小型版も出され、大正末までに数百も版を重ねた。夏目漱石も小説『明暗』(大正5年)で、登場人物が手紙を書くときに〈きっと言海を引いて見る〉という形で触れるなど、浸透ぶりが伝わる逸話は多い。
 今年10年ぶりに改訂版が出た国語辞典『広辞苑』の項目数は約25万だから、量の面では見劣りする。それでも娘や妻に先立たれた失意もつづられた長文の後書きの切実さも相まって、読み継がれてきた。ちくま学芸文庫から平成16年に出た小型版の複製は現在10刷。辞書編纂者の飯間さんも机のそばに置き、頻繁に参照する。「『言海』を踏襲した語釈は今もある。その意味で古びていないと思う」からだ。
 「川」もその一つ。〈陸上ノ長ク凹(くぼ)ミタル処ニ、水ノ大(おおい)ニ流ルルモノ〉と説明する『言海』に対し、『三省堂国語辞典』第7版は〈地上のくぼみに沿って流れる水(の道)〉。全体の地形を示した後、「水」「流れ」に触れて定義を狭めていく構造は同じ。普通の語を簡潔に説明する『言海』の文法の普遍性が分かる。

 「自分たちが説明に苦しんだ言葉が2、3行でズバッと言い当てられ、『負けた』と感じることもある。私たちにも『言海』を超えなければという意地があるから何度も見ては確かめるのです」。120年以上前の「言葉の海」は、現代人を刺激し続ける。(海老沢類)
 次回は26日『楚囚之詩』(北村透谷)です。
【プロフィル】大槻文彦
 おおつき・ふみひこ 弘化4(1847)年、江戸生まれ。蘭学者・大槻玄沢の孫。漢学や洋学を修め後に国語研究に進む。文部省の命で国語辞典『言海』の編纂にあたり、17年を費やして完成させた。宮城県尋常中学校(県立仙台一高の前身)校長、国語調査委員などを歴任。文学博士、帝国学士院会員。昭和3(1928)年、『大言海』の編纂中に死去した。

*2018.03.19 産経新聞より
(https://www.sankei.com/life/news/180319/lif1803190021-n1.html)

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