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zoom RSS 【明治の50冊】(7)中江兆民「三酔人経綸問答」 南海先生に託した百年の大計

<<   作成日時 : 2018/06/09 23:07   >>

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 明治150年にあたる今年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。

 これからの日本の進路は非武装中立だとする理想主義に対し、国益第一と対外強硬策を掲げる国権主義。そして、そのどちらにも距離を置く現実主義。この3者が討論するユニークな思想書が『三酔人経綸(けいりん)問答』だ。「東洋のルソー」と称された思想家、中江兆民の主著であり、その問題提起は明治20年の刊行から130年あまり経(た)った現在でも、少しも古びていない。
画像
中江兆民

 登場人物は3人。スマートな洋装で弁舌爽やかな「洋学紳士」と、かすりの羽織で容貌魁偉、野心あふれる「豪傑君」。この2人が浮世離れした生活を送る政論家「南海先生」の家を訪ね、持参したヘネシーのブランデーを酌み交わしながら、日本の将来を論じ合うという趣向だ。
 まず、西洋啓蒙(けいもう)主義を学んだ洋学紳士が、人類社会は専制政治から立憲君主制へと段階的に進歩してきたという「政事的進化の理」を説き、その最高の到達点である民主共和制への早急な移行、および世界平和のための欧米先進国に先駆けた軍備放棄と無抵抗主義の徹底を訴える。一方の豪傑君は、文明が進んでも戦争が絶えない現実と日本の軍事力の不足を指摘し、近隣国を征服してその資源で列強に対抗することを論じる。

 この両極端の話を聞いた南海先生は、洋学紳士の主張は実現した例のないユートピア、豪傑君の説は時代錯誤で危うい政治的手品と批判し、対外的には国際協調と自衛に徹した軍備、内政では立憲君主制での漸進的な民主化を選ぶべきだとの考えを述べる。2人の客は陳腐な結論だと笑うが、南海先生は「邦家(ほうか)百年の大計を論ずるに至(いたり)ては、豈(あに)専(もっぱ)ら奇を標し新を掲げて、以(もっ)て快と為(な)すことを得(え)んや」と真顔で押し切った。現在まで続く種々の政治論争の基本形が、すでに提示されているといえるだろう。
 昭和40年刊の岩波文庫版は、現在までに69刷約25万部。平成26年には光文社古典新訳文庫にも収録された。大学の政治学の講義で参考書として指定されることも多く、いまなお本としての生命を保っている。
 先崎彰容・日本大教授(日本思想史)は、明治思想史上の本書の位置について「福澤諭吉の『文明論之概略』(明治8年)の次の山となる重要な作品」とする。2作はともに今後の日本のあるべき姿を論じた書だが「『文明論−』がどう近代化の道を歩むべきかを示したマニフェストなのに対し、『三酔人−』は明治国家が次第にできあがっていく時期において、どのように秩序を構築していくかを理論的に考えている」。

 時代背景としては、自由民権運動の激化と衰退があった。西南戦争後に藩閥専制を批判し盛り上がった運動は、国会開設の約束などの懐柔と弾圧を織り交ぜた政府の対策もあり、17年には中核の自由党が解党。運動の一部は過激化して暴動やテロに走り、閉塞(へいそく)状況に追い込まれていった。
 本書では、ひたすら変革を求め破壊に励む革命家はむしろ批判的に言及されている。一般に兆民は自由民権運動の旗手と理解されているが、先崎教授は「そうした一面的な読み方には疑問がある」と語る。3人すべてに兆民の思想は反映されているものの、やはり中心は南海先生だという。「兆民は本質的に運動家でなく哲学者。政治思想においては秩序の破壊ではなく、どう構築するかを冷静に考えた人で、どちらかといえば良質な保守主義者に近い」
 人目を引く左右の極論に流されず、「陳腐」とされてもバランス感覚を保った現実主義を貫くことは、容易に見えて意外に難しい。『三酔人−』が突きつける問いは、平成末の現在も生きている。(磨井慎吾)
【用語解説】なかえ・ちょうみん
 弘化4(1847)年、土佐藩士の家に生まれる。長崎、江戸で仏語を習得。維新後は仏留学を経て東京で私塾を開く。政府に出仕もするが短期間で辞職。仏思想家、ルソーをはじめ多数の哲学書の翻訳を手がけたほか、「東洋自由新聞」主筆を務めて藩閥政府を批判するなど、自由民権運動の理論的支柱としても活躍した。明治34(1901)年、死去。
 次回は3月5日『遠野物語』(柳田国男)です。

*2018.02.26. 産経新聞より
(https://www.sankei.com/life/news/180226/lif1802260017-n1.html)

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