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zoom RSS 【明治の50冊】(6)坪内逍遥『小説神髄』 近代日本文学の“発火点”

<<   作成日時 : 2018/06/02 15:00   >>

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明治150年にあたる今年、産経新聞社では明治年間に書かれた先達の作品を紹介していきます。著作権も切れ、ともすれば忘れがちになる古典をもう一度再認識させてくれる好企画です。

 物語の登場人物を「聖人君子」などではなく、「等身大の人間」として描く。現代の小説では半ば常識とされるこの概念は、江戸期までの日本文学には当てはまらなかった。時は明治維新から約20年後。当時20代の若き文筆家、坪内逍遥は文学評論『小説神髄』で、小説への「写実主義」の導入を提唱。日本文学を一変させる“発火点”となり、同時代や後世の作家に多大な影響を与えた。
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坪内逍遥(国立国会図書館蔵)

 同書は明治18〜19年にかけ分冊で発行。その後上下巻にまとめられた。上巻では、「小説が美術である理由」や「小説の歴史」など本質的な考察を展開。下巻では、それまでの日本文学にはない概念だった「主人公」の設置など技術論を説いた。中でも有名なのが、「小説の主眼」を論じた文章だろう。
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>『小説神髄』の単行本(立命館大学図書館蔵)

 〈小説の主脳(しゅのう)は人情なり、世態風俗これに次ぐ。(中略)人情とは人間の情慾にて、所謂(いわゆる)百八煩悩是れなり〉
 ここで言う「人情」とは人間の感情や心理のこと。つまり、喜怒哀楽に嫉妬、愛欲など老若男女の心の内幕を詳細に描き、「世態風俗」(世の中の様子)を写実的に描写するリアリズムこそが小説において重要だ−と主張した。東大卒の文学士という超エリートの逍遥が提唱した“急進的”文学理論は、二葉亭四迷ら有識者に強い衝撃を与えた。

 当時の小説は江戸期の流れをくむ戯作小説か、政治小説が中心。いずれもリアリズムからはかけ離れ、小説の地位も非常に低かった。文芸批評家で早稲田大文学学術院教授の渡部直己氏は、逍遥の功績について「単なる娯楽として当時低く見られていた文学の地位を高め、美術へと発展させたこと」と指摘する。
 とりわけ画期的だったのは、曲亭(滝沢)馬琴の『南総里見八犬伝』など逍遥自身も親しんだ江戸文学に通底する「勧善懲悪」の概念を否定したことだ。渡部教授は「当時の『八犬伝』は誰もが読んでいた作品。古い伝統を焼き尽くし、西洋文学と日本文学のギャップを埋めようとしたのが逍遥の意図だった」と語る。
 皮肉なことに逍遥自身は『小説神髄』で自ら批判した“呪縛”から逃れられず、後に小説執筆を断念。二葉亭らも同書を批判したが、これらの文学論争が後に初の言文一致体小説『浮雲』につながり、後年の自然主義文学へと昇華していく。同時期を生き、辛口の批評で知られた評論家、内田魯庵は「坪内君は明治の文学の大いなるエポック・メーカーである」と評した。つまり、時代を切り開いた先駆者だ、と。

 「逍遥の功績は、議論の発火点を作り、その上で近代文学の花を咲かせたこと。日本の近代文学は『小説神髄』から始まったのです」(渡部教授)
 現在『小説神髄』の名は国語の授業などで習うため、大多数の人は知っている。ただ、通読した人はそう多くはない。だが、このことこそが、当時逍遥が唱えた画期的な文学論が現代においては自明のことであり、広く受け入れられていることの証しではないか。(本間英士)
 次回は26日『三酔人経綸問答』(中江兆民)です。
【プロフィル】坪内逍遥
 つぼうち・しょうよう 安政6年5月(1859年6月)、美濃(岐阜県)で尾張藩士の家に生まれる。東大で英文学を学んだ際、試験で悪い成績点を付けられたことをきっかけに英国の文芸批評を学び、それが後の『小説神髄』につながった。主な著書に小説『当世書生気質』など。明治24(91)年、文芸雑誌『早稲田文学』を創刊。シェークスピア作品の全訳を行うなど演劇の近代化にも貢献した。昭和10(1935)年、死去。

*2018.02.19 産経新聞より
(https://www.sankei.com/life/news/180219/lif1802190017-n1.html)

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