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zoom RSS 【マキャベリ流−是非に及ばず】(34)

<<   作成日時 : 2017/12/22 23:22   >>

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 日本史に関する記事では定評のある産経新聞、今回は数々の著作もある論説委員の関厚夫さんが、マキャベリをとおして日本史を語ります。必見です。

NOBUNAGA(34)民衆を土台に頼む者は、ぬかるみに土台を築くが如し−か?

 「『裏切られ信長』シリーズもいいが、ここらで少し閑話休題、気分転換をしてみないか?」
 お師匠様(マキャベリさん)である。珍しく相好を崩しながら近寄ってきた。しかし、例によって目は笑ってはいない。身構える筆者を前に、眼光はそのまま、器用に目尻だけ下げつつ口端を上げてみせながら、お師匠様はかくのたまわった。
 「お前さんのところの安倍内閣とやらもけっこう大変なばかりか、いろいろと決断のときが迫っているそうじゃないか。ここはちょいと見方を変えて『危機とその突破』について温故知新の政治談議をしてみようぜ。織田信長の野郎だって裏切られ、危機に陥るたびに突破してきたんだ。『裏切られ信長』からまったく離れるわけでもなし、何より真夏の合間、一服の清涼剤になるにちがいないぜ」
 気が進まない。が、師命であり、有無を言わさぬ目力には沈黙せざるをえない。
 是非に及ばず−である。
 「さて信長の野郎は家督を嗣(つ)いだ10代後半から危機や四面楚歌(そか)の連続だったといえるわな。にもかかわらず、『本能寺の変』までそれらをはね返し、勢力を拡大し続けてきた。なぜかと思うかね」

 そうかもしれない。尾張時代は今川家の侵攻と美濃斎藤氏の抵抗に手を焼き、京に上ったら今度は『信長包囲網』だ。その間、絶え間なく家子郎党(いえのころうどう)や新参者が、舌禍騒動や失策、不祥事を…いやちがった、反旗を翻す。外交攻勢もふくめ、よくもまああれだけ戦い続け、勝ち続けてきたなとは思う。しかし、かといって、「その理由はなんだ」といきなり聞かれても−と考えあぐねていると…。
画像
苦闘時代の織田信長の拠点・清洲城(復元)=愛知県清須市(関厚夫撮影)

 「運命(フォルトゥナ)だよ」
 (え? そんな答えはありなのか!)と、あきれて絶句する筆者を楽しげに眺めながらお師匠様は話し始めた。
 「もうちょっと親切に言うと『運命との付き合い方』とでもいうべきかな。『人間の自由な意欲は、どうしても失われてはならないものであって、かりに運命が人間の活動の半分を思いのまま裁定することができるとしても、少なくともあとの半分か、または半分近くは、運命もわれわれの支配にまかせているとみるのが真実であろう』(※1)。おれさまが『君主論』でそう喝破したごとく、人生の半分は運命に委ねるとしても、もう半分については、信長の野郎のようにいかに自分で支配し、切り開いてゆくか、だ」
 「…」

 「地獄へ行く道は簡単だ。目を閉じてころげ落ちればいいだけだ。だからこそ人間は運命のせいにして途方にくれてなどいないで何でもやってみることだ。だいたい神様は強き者を愛したまうものだからな(※2)。それに偉大な人間はどんな環境に置かれても常に変わらないものさ。運命が高い地位につかせたり、あるいは虐げたりしても、彼らは泰然として変わらず、常に不屈の心を持ち続けるものなんだよ(※3)」
 ここでお師匠様は一(ひと)呼吸置き、いやに凄味(すごみ)のある笑顔を見せた。
 「これとは正反対なのが弱い人間だ。彼らは幸運に恵まれると有頂天になる。この幸運はすべて、ありもしない自分の実力(ヴィルトゥ)のおかげだと言い張る。こうして周囲から憎まれ、鼻持ちならない存在になる。そうこうしているうちに運命の逆転に見舞われる。するととたんにうってかわって弱みに沈み、卑怯(ひきょう)な、卑屈な人間になりさがる。こういう奴(やつ)らは逆境に見舞われれば、防衛することよりも、逃げることしか考えない(※4)。偉大な人間は見本を探すのが難しいが、どこのだれとは言わずとも、そんな奴らはそこらにごろごろと転がっているわな」
 「『民衆を土台に頼む者は、ぬかるみの上に土台を築くが如(ごと)し』。こんな諺(ことわざ)を知っているか?」
 お師匠様は話題を変えた。
 「もちろんこの諺通りのこともあるさ。でもな、『ある君主が、民衆の上に土台を置き、しかも指導的な立場にあり、決断力をもち、逆境にあってもあわてふためかず、諸般の準備を怠らなければ−それとともに、一般大衆の気持ちを、勇気と規律とをもってしっかりとつかんでいれば−けっして民衆にあざむかれることはなく、確実な土台に立っているという自信をもつことができる』(※5)。このおれさまの金言は古今東西、また政治体制を超えた真実といえるだろうな」
 とはいえ信長ではないが、政治の世界に生きる者、また政権を維持している者にしてみれば、そんな「確実な土台」の上に立っているような理想的な状態にある方が少ないのではないか。ぬかるみにある、または土台がぬかるんできたさいはどうすればよいのか、そんな質問をお師匠様にぶつけた。すると−。
 「前回も言ったが、『君主はだれからも憎悪も軽蔑も抱かせないよう振舞わねばならない。どちらかを放棄しなければならないときには、軽蔑されることを怖(おそ)れねばならない』(※6)。いい例がチェーザレ・ボルジアを『信長になれなかった男』に陥れたユリウス2世さ。この大教皇は怖れ敬われていさえすれば憎まれても平気だった。その畏敬の念を利用して世界をひっくり返し、教会国家発展の道を拓(ひら)いていった」

 お師匠様はここでまた一呼吸置き、例の凄味のある笑顔を見せ、こうしめくくった。
 「『潔く失うほうが、恥をしのんで一部を握りしめているよりもましである。そもそも全体が堅固であれば、一部を失うこともない』(※7)。防衛相は辞任したが、内閣改造は近いし、胸突き八丁の政局が続くんだろう? 真価が問われるのはこれからだ。お手並みとご覚悟をじっくり拝見するとしようじゃねえか」(編集委員 関厚夫)
 ※1 中央公論社『世界の名著21マキアヴェリ』
 ※2 筑摩書房『マキァヴェッリ全集1』所収『カストルッチョ・カストラカーニ伝』
 ※3、4 中央公論社『マキアヴェリ』所収『政略論』
 ※5 中央公論社『マキアヴェリ』所収『君主論』
 ※6、7 筑摩書房『マキァヴェッリ全集6』所収「書簡」=いずれも一部編集

*2017.07.30 産経新聞より
(http://www.sankei.com/life/news/170730/lif1707300028-n1.html)

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