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zoom RSS 【マキャベリ流−是非に及ばず】(15)

<<   作成日時 : 2017/04/29 17:41   >>

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日本史に関する記事では定評のある産経新聞、今回は数々の著作もある論説委員の関厚夫さんが、マキャベリをとおして日本史を語ります。必見です。

NOBUNAGA(15) はるかな実力差のある相手にはあらゆる手段で友好せよ

 《背は高く痩せており、鬚(ひげ)は少ない。声はよく通り、軍事的修練に深く没頭し、粗野である。正義と慈悲の業を好み、尊大で名誉を非常に愛する。大いに決断を秘め、戦術に関してはいとも巧みであり、規律や家臣の助言には僅か、或(ある)いはほとんど全く従わず、諸人から極度に畏敬されている。酒は飲まず、(人の)取扱(とりあつかい)には厳格で、日本の王侯をことごとく見下し、位低き者に対するかのように肩の上から彼らに語りかける。すべての人が絶対君主に対するように服従する》
 宣教師、ルイス・フロイスが1569年6月1日付の書簡で描いた、36歳(数え)の織田信長である(松田毅一氏監訳『十六・七世紀 イエズス会日本報告集』)。
 「何だかどこかでみたことがある文章だなあ」と思って調べてみたら、あった。外交官生活も5年目、脂が乗ってきたお師匠(マキャベリ)様(さん)が1502年6月下旬、母国のフィレンツェ共和国政府に送った報告書にこんな一節があった。

 《この君主は容姿ことのほか美しく堂々として、武器を執っても勇猛、どのような大事にもびくともされず、栄光を追及(求)し国家を獲得するために休みなく邁進(まいしん)、疲れも知らず危険もものともされません。ひとたび兵を起こされるや神速果敢、兵士の心もよく掴んでおられ、周囲にイタリア最良の武者たちを集めておられます。生まれながらに備わった良い御運に加えてこの御器量ですから、常に勝利を収め、敵に恐れられておいでなのです》(※1)
 文中の「イタリア」を削除すれば「信長について」と題しても通用するのではないか。他者をみること辛辣(しんらつ)至極な日ごろのお師匠様に似合わず「ベタ褒め」の観がある。この君主こそ、チェーザレ(カエサル=皇帝と同義)・ボルジアである。
 お師匠様は当時、フィレンツェから東へ約110キロのところにあるウルビーノに特派されていた。そこで初対面したチェーザレはまだ27歳。彗星(すいせい)のごとくイタリア史に登場し、破竹の勢いでフィレンツェ共和国と国境を接するイタリア中部の各地方を支配下におさめていた。

 このあたり、約60年後、数えで27歳のときに桶狭間合戦で東東海(ひがしとうかい)の覇王・今川義元を討ち取り、一挙に歴史の主舞台に躍り出た信長の姿に重ならないではない。

 さてここで、チェーザレ・ボルジアが台頭してきた1500年前後におけるイタリアの勢力分布について少し説明をしたいのだが、以降、図の方もぜひご参照あれ。
 さすがに戦国時代。イタリアは当時、見事なほどに群雄割拠であり、つねに他国からの侵略・干渉を受けるという悲劇的な状況にあった。
 南部の大国・ナポリ王国はフランス王家もからんだ抗争の後、スペイン王家の支配下に入り(〜1504年)、北部の雄・ミラノ公国はフランス王家の占領下にあった。
画像

 独立を保っていたのは主として海の覇者・ヴェネツィア共和国とイタリア中部地方だったが、後者は四分五裂。フィレンツェ共和国を筆頭とした都市国家や僭主(せんしゅ)(独裁制をしいた君主)国家が乱立していた。なかでも「ローマ教皇(法王)領」ではその北部の「ロマーニャ公国」を中心に僭主や封建諸侯が地域ごとに覇を唱えていた。このため、現職の教皇が野心家で“やり手”である場合、領内をいかに統一し、拡大してゆくのかが、最大の関心事だった。

 そんなところにチェーザレ・ボルジアが登場する。

 父はローマ教皇のアレクサンデル6世。ピサとペルージャの各大学に学び、10代後半でバレンシア大司教、次いで枢機卿(教皇に次ぐ聖職者で教皇の選挙人)に任ぜられるなど教会の最高峰にあった。しかし、1498年、変死した兄の跡を継ぐかたちで還俗するや、たちまち武将としての頭角を現す。父の名代として次々と教皇領内を切り従えてゆき、隣接する自由国家・フィレンツェ共和国の独立も累卵の危うきにあった−。
 「ちょっと待った!」
 ここで例によってお師匠様の横やりが入った。
 「お前さん、さっき聞き捨てならぬことを言ったな。『他者をみること辛辣至極』なこのおれさまに似合わず、チェーザレ・ボルジアの野郎を『ベタ褒め』だと? おれさまがあの大嘘つきの真の意図を探るために派遣されていたときに本国に送った報告書を読んでみろ! 『どんな話になっても小生は、公爵閣下(チェーザレのこと)の腹心の部下であるかのように振る舞い、打ち解けた会話になるよう努めました』(※2)とあるだろうが! どうだ! このおれさまは、いつだって腹に一物−いや違った、歴史家としての批判精神を忘れたことはないんだよ!」

 (そんなに大上段に構えられても…。面構えに似合わず外交官として涙ぐましい努力をしていたんだから、おれのことをもっと尊敬せよとでも言いたいのかなあ)
 −などと考えていた筆者の沈黙を「無条件降伏」と勘違いしたのか、お師匠様はさらにまくしたてた。
 「覚えておけ。『相手と戦うにはどうしても実力が不足しているばあいには、あらゆる手段をつくして相手と友好関係をとり結ぶように努力しなければならない。たとえば、相手の趣味に歩調を合わせ、相手が喜びそうなことならなんでもいっしょになって楽しむようにしなければならない』(※3)ってことを。何? サラリーマンの悲哀を感じるだと? そんな甘いことを言っててどうする! 『このように親密さを装っていれば、まず第一に、身の安全が確保される。そればかりでなく、危険な目にあわずに、相手の君主の幸運を、いっしょに楽しむこともできる。しかも、こちらの計画をたやすく実行に移すことができるようになる』(※4)わけじゃないか。まあ、こんなことを言っているからおれは『悪の教師』なんて陰口をたたかれるのだろうけどな」(編集委員 関厚夫)
 ※1、2 筑摩書房『マキァヴェッリ全集5』
 ※3、4 中央公論社『世界の名著21 マキアヴェリ』所収『政略論』、一部編集

*2017.03.19 産経新聞より
(http://www.sankei.com/life/news/170319/lif1703190027-n1.html)

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コメント(1件)

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かなり世界史忘れてるのわかった。
井出浩司
2017/04/29 22:01

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