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zoom RSS 【マキャベリ流−是非に及ばず】(4)

<<   作成日時 : 2017/01/28 22:11   >>

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 日本史に関する記事では定評のある産経新聞、今回は数々の著作もある論説委員の関厚夫さんが、マキャベリをとおして日本史を語ります。必見です。

NOBUNAGA(4)運命という老魔女は、君を無視し、脅し、また媚びてみせる

 (なんだこれは? 乱世の申し子のようでいて、逆に乱世に翻弄される人物の典型ではないのか…)
 そう思わずにはいられなかった。月が冷たく輝く夜、マキャベリの年譜と日本史年表を代わる代わる眺めていたときのことだった。
 1467年5月(旧暦) 応仁の乱(〜77年)勃発。戦国時代が始まる。
 1469年5月3日 イタリア・フィレンツェでマキャベリが生まれる。生家は没落名家とされる。
 1494年晩夏 フランスがイタリアに侵入、65年に及ぶイタリア戦争の時代(「戦国時代」)が始まる。
 1498年6月 マキャベリ、フィレンツェ共和国政府第二書記局の責任者に選任される。以前の経歴は不明な部分が多い。以降、戦乱と陰謀が渦巻く国内外を奔走する。
 1511年? 織田信長の父、信秀が生まれる。
 1512年秋 スペイン・ローマ法王連合軍の侵入によってフィレンツェ共和国政府が崩壊。マキャベリは「旧体制派の走狗(そうく)」として、すべての役職を解かれ、領内からの外出禁止と高額の保証金の支払いを科される。
 1513年2月 マキャベリは無実の罪(謀反)で投獄され、拷問を受ける。翌月に恩赦。フィレンツェ郊外の山荘に引きこもる。7年余にわたるこの隠退生活の初期に『君主論』が生まれる…。
 《運命の奴め、私を踏みにじってこんな境遇に追い込んだけれど、こちらは痛くもかゆくもない。人をいたぶったことを恥じ入らせてやろうと、運命の悪意など吹き飛ばしているのですよ》(※1)
 山荘に隠居中の1513年師走、マキャベリは友人の駐ローマ大使にこんな一文を書き送っている。不屈の意志の発露なのか、それとも単なる強がりか−。読み手のそんな疑問をはぐらかすかのように彼の筆は一転して奇妙な儀式についてつづり始める。
 《晩になると、家に帰って書斎に入ります。入り口のところで泥や汚れにまみれた普段着を脱ぎ、りっぱな礼服をまといます。身なりを整えたら、古(いにしえ)の人々が集う古の宮廷に入ります。私は彼らに暖かく迎えられて、かの糧を食します。その糧は私だけのもの、そして私はその糧を食べるために生まれてきたのです》(同)
 ここでマキャベリが語っているのは架空の宮廷である。正装した彼はそこで、おそらくは共和政時代のローマの賢人たち、歴代のローマ皇帝、ハンニバルやカエサルといった古代の武将、さらには故郷が生んだ悲劇の大詩人、ダンテらと親しく言葉を交わす。そしてその会話そのものを、「糧」と呼んだのだろう。

彼は続けている。
 《私は臆することなく彼らと語り合い、彼らがとった行動について理由を尋ねます。すると彼らは誠心誠意答えてくれます。四時間もの間、退屈など少しも感じません。あらゆる苦悩を忘れ、貧乏への怖れも死に対するおののきも消え去って、彼らの世界に浸りきるのです》(同)
 とっぴな比較をお許しいただきたい。この手紙は筆者に宮沢賢治を想(おも)い起こさせる。
 《これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹や月あかりからもらつてきたのです》
 賢治の代表作、童話集『注文の多い料理店』の「序」の一文だ。マキャベリは古人と対話し、賢治は自然や文明の利器と対話する。そこで食す「糧」について、賢治は以下のようにつづっている。
 《わたしたちは、(中略)きれいにすきとほつた風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。
 またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびらうどや羅紗(らしゃ)や、宝石いりのきものに、かはつてゐるのをたびたび見ました》
 詩人・マキャベリか−。
 そう思った瞬間だった。
 「お前さんも、ちっとはものがわかってきたようだな。でも、『君主論』にこんなことも書いていたっていうことは知ってるかい?」
 あの男だ。あの甲高い声の冷笑野郎だ。
 「『運命の神は女神であるから、彼女を征服しようとすれば、うちのめしたり、突きとばしたりすることが必要である。要するに、運命は女性に似て、若者の友である。つまり、若者は、思慮は深くなく、あらあらしく、きわめて大胆に女を支配するからである』(※2)ってな」
 なんだこいつは?
 あっけにとられる筆者に彼はたたみかけてきた。
 「あはははは! 口が過ぎるってかい? でも海の向こうではこうした舌禍では名うての御仁が大統領(ゴンファロニエーレ)になるそうじゃないか。そんな時代なんだよ。では今度は運命についておとなしめのやつを。『この年老いた魔女は、恐ろしい顔と優しげな顔を二つながら持ち、頭をめぐらすに従って、ある時は君を無視し、ある時は脅し、そしてある時は媚(こ)びてみせる』(※3)。どうだい、すてきだろう?」

姿を現したこの男は中背で痩せ形、肌は雪のように色白だが、頭髪はカラスの羽のように黒く、つやつやしている。まさか…。
 「ご明察。歴史家、喜劇作家にして悲劇作家、そして詩人−ニッコロ・マキャベリさまだ。いまごろ気付いたか」
 「あなたは…なぜ日本語を話すのですか? ルネサンス期のイタリア人の…」
 「くせに」と続けようとして、筆者は思わず言葉をのみ込んだ。
 「お前がおれのことを日本語で読んだからだよ。世界中で翻訳されたおかげで、おれは世界中のことばを話すことができるんだ」
 −仰天。(編集委員 関厚夫)
 ※1=筑摩書房『マキァヴェッリ全集6』
 ※2=中央公論社『世界の名著21 マキアヴェリ』から。一部編集
 ※3=筑摩書房『マキァヴェッリ全集4』から諷刺(ふうし)詩「運について」

*2016.12.25 産経新聞より
(http://www.sankei.com/life/news/161225/lif1612250026-n1.html)

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『君主論』ですか。読んだかな?忘れちゃった。=途中で読むのやめたと思います。
井出浩司
2017/01/29 06:00

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