モノトーンの肖像画

アクセスカウンタ

zoom RSS 【マキャベリ流−是非に及ばず】(1)

<<   作成日時 : 2016/12/30 12:30   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 1

 日本史に関する記事では定評のある産経新聞、今回は数々の著作もある論説委員の関厚夫さんが、マキャベリをとおして日本史を語ります。必見です。

NOBUNAGA(1)あの男が「やむをえぬ」?彼を動かしたのは栄光か、情熱か

 (なんとばかばかしい指示であることか)
 今春、東都の桜も見頃のころだった。熱弁のあまり、ぱくぱくと上下によく動く上司の口元を眺めながら、筆者は考えていた。
 (マキャベリの言葉で日本史を斬れ、だと? 主著の『君主論』や「マキャベリズム」はある程度有名だし、検索をかければ数十万のヒットはあるだろう。だが、それにしてもマキャベリとは… ルネサンス期のイタリア人? そいつがいったい、栄光ある日本史に何の意味があって、なにをしたと言うんだ…)
 そんな思いとは裏腹に、筆者はお追従の笑顔さえ浮かべながら、この上司に答えていた。
 「わかりました。『マキャベリで斬る日本史』ですね。いやあ、実にやりがいのあるテーマです。30年に及ばんとする記者生活のキャリアを飾る記事にしてみせます!」

 (何であんなことを言ってしまったんだろう)
 心に浮かぶのは後悔ばかりである。
 (でも、ああ言わざるをえないわな)
 別の自分が慰める。
 「そうか、やってくれるのか!」
 くだんの上司はそう言って笑った。
 しかし、その目は笑ってはいない。妙な光を放っている。「これは君にとって最後のチャンスなんだからね」。考えすぎだろうか。そんなシグナルが発せられているような気がする。
 ご無理ごもっとも、是非に及ばず…か。


 日本史…。
 幕末・維新期なら少しかじったことがある。でも気になるデータがある。歴代のNHK大河ドラマの視聴率を並べると、この時代を題材にした作品は苦戦しているケースがかなり多いのだ。すでに背水の陣である。これ以上のリスクを背負い込んだら戦う前に水没してしまう。
 『独眼竜政宗』『武田信玄』が歴代の1位と2位。寄らば大樹の陰、戦国期から入るのが無難だろう。かといって伊達政宗や信玄、ましてや真田信繁だったか幸村だったかに材を取るのはいかにもあざとい。ならばだれだ…。
 そういえば、ある有名作家がこんなことを書いていたか、言っていたかしていた記憶がある。
 「織田信長を書くと、作家を問わずそれは傑作になる。信長という人物そのもの、またどんな作家であろうと彼を書くには感性と集中力を研ぎ澄まさねばならぬゆえ、名作が生まれるのではないか」
 まずは信長…。
 よく考えてみればマキャベリと信長は同時代人だ。前者は1527年に58歳で生涯を閉じ、後者はその7年後に生まれている。言ってみればマキャベリは信長のじいさんみたいなものじゃないか。
 そして2人とも世界史にいう「大航海時代」を代表する破壊者であり、創造者でもある。マキャベリが『君主論』でほめたたえた「血のプリンス」、チェーザレ・ボルジアは、いわば“小信長”だ。
 われながら少々強引である、と思う。だが、そんなことを気にしている場合ではない。とにもかくにも2人はつながった。
 決めた!
 机の前に積まれた全7巻の『マキァヴェッリ全集』を横目にしながら、ようやくそんな結論にたどりついたとき、いまや五月(さつき)を告げていた。


 《既に、信長公御座所、本能寺取り巻き、勢衆、四方より乱れ入るなり。信長も、御小姓衆も、当座の喧嘩を下々の者ども仕出(しいだ)し候と、おぼしめされ候のところ、一向さはなく、ときの声を上げ、御殿へ鉄炮を打ち入れ候。是れは謀叛(むほん)か、如何(いか)なる者の企てぞと、御諚(ごじょう)のところに、森乱(もりらん)申す様に、明智が者と見え申し候と、言上候へば、是非に及ばずと、上意候》
 『信長公記』(太田牛一著、桑田忠親校注)が描くご存じ、本能寺の変だ。著者の太田は信長の近辺に仕えた弓自慢であり、政権の官僚でもある。信長についての史料中の史料とされるこの書を久々に再読したとき、昔抱いた疑問がよみがえってきた。
 是非に及ばず−。
 「よしあし、やり方などをあれこれ論議する必要はないとか、もはやそういう段階でない状態をいう。どうしようもない。しかたがない。やむを得ない」
 日本国語大辞典は13世紀以降の文例を4つ示しながらその意味を説明している。次に手元にある2種類の現代語訳を繰ってみた。
 《信長公が「さては謀反か、いかなる者のしわざか」とお尋ねになったところ、森乱(蘭丸〈長定〉)が、「明智の手の者と思われます」と申し上げると、「やむをえない」と覚悟なされる》
 教育社新書による「原本現代訳」だ。新人物文庫の「現代語訳」でも《信長は「やむをえぬ」と一言》である。
 あの信長が?

 あの激しく、宣教師ルイス・フロイスが「非常な傲慢さと尊大さが支配していた」と評した信長が、天下統一を目前にして、しかも世間の塵(ちり)の中に埋もれていたところを城持ちにまで引き立ててやった明智光秀に寝首をかかれようとしている。なのにまるで、生悟(なまざと)りの僧侶のように「やむをえない」とか「しかたがない」とか言うか? 烈火のような反応があってこそ、信長ではないのか。
 「細かなことを知るためには、人間の性状を掴(つか)め。皇帝は自ら治めるのか、それとも他の者に任せているのか。吝嗇家(けち)なのか、それとも金を惜しまぬ人なのか。戦争を愛するのか、平和を愛するのか。彼を動かすのは栄光か、それとも情熱か」※
 晩年に近いマキャベリが知人に与えたメッセージが浮かんだ。信長だけでなく、「予測不能」と評される次期米大統領の行動分析にも使えそうだが、まずは『信長公記』と信長が発給した文書や書簡を集成した3巻組みの『増訂 織田信長文書の研究』の読み込みだ。
 よし、ほのかな光が見えてきた。(編集委員 関厚夫)
 ※筑摩書房『マキァヴェッリ全集6』(一部編集)


*2016.12.04 産経新聞より
(http://www.sankei.com/life/news/161204/lif1612040044-n1.html)

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
きわめて現実的な人だったと思うけどね。
銭ないと戦争できない->なんて誰でも知ってたと思う。
嘘ついたら同盟してくれる人いなくなる->織徳同盟は戦国時代まれにみる強固で長い同盟でしょ。
坊さん殺しちゃったのも、税金払わないからね。お布施にまわしちゃう。今でも脱税は厳罰だわな。
そういう基礎を徹底的にやった人だと思います。
井出浩司
2016/12/31 07:08

コメントする help

ニックネーム
本 文

天気予報


コアラのマーチ


AKB48ブログ集

© AKB48ブログ集
【マキャベリ流−是非に及ばず】(1) モノトーンの肖像画/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる