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zoom RSS 【敗者烈伝】〜北条氏政(下) 環境激変…手堅さが仇に 作家・伊東潤

<<   作成日時 : 2016/02/28 19:52   >>

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 産経新聞で作家の伊東潤さんが日本史の敗者に光を当てる素晴らしい歴史エッセーを連載しています。

 上杉謙信を関東から駆逐し、40年余にわたって抗争を続けた里見氏と和睦し、さらに御館(おたて)の乱後の苦境を巧妙な外交策で乗り切り、武田氏滅亡の一端を担ったのだから、ここまでの北条氏政の仕事は称賛に値する。
 天正10(1582)年6月、織田信長が本能寺に斃(たお)れることで、再び時代の風向きが変わる。この機に上野国奪還を期した氏政は、織田氏の関東総奉行である滝川一益と一戦に及び、これを撃破した。神流川(かんながわ)合戦である。これにより関東から織田勢力を駆逐した北条氏は、信濃・甲斐両国の領有を策す。信濃北部には上杉景勝、甲斐には徳川家康も侵入し、3者間で武田旧領争奪戦が繰り広げられることになった。
 しかし上野国の一部を領有する真田昌幸の裏切りによって、北条氏の作戦は齟齬(そご)を来し、結局、甲信の地を家康に差し出す代わりに、上野国の領有を認めてもらうことになった(天正壬午(じんご)の乱)。いずれにせよ、この機に家康と再同盟を締結したことが、後の豊臣政権との対立、そして滅亡へと北条氏を導いていく。

 しかし徳川傘下に転じたはずの真田昌幸が、家康の命に反して上野国の所領を北条方に引き渡さず、上杉傘下に転じたため、またしても関東は戦雲に覆われる。
画像
神奈川県小田原市にある北条氏政・氏照の墓所(小田原市提供)

 怒った家康は天正13年、真田氏の本拠・上田城まで兵を送るが、惨敗を喫する(神川(かんがわ)合戦)。これにより、北条氏の上野国完全領有は果たされないことになる。
 小牧・長久手合戦を優勢のまま終わらせた家康だったが、前述の神川合戦で辛酸をなめ、さらに秀吉が、紀州雑賀・根来一党、四国の長宗我部元親、北陸の佐々成政を次々と切り従えた上、家康股肱(ここう)の石川数正の寝返りをも成功させたため、一転して窮地に立たされる。結局、家康は秀吉に臣従するしか手がなくなり、北条氏は梯子(はしご)を外された格好で、関東に孤立することになった。
 秀吉に対して和戦両様の構えを取ることにした北条氏では、商人町や耕地を小田原城内に取り込み、半永久的に籠城戦を行うことを目指した外周9キロの「惣構(そうがまえ)」を構築した。
 氏政は拠点戦略に長(た)けており、これまでも密な城郭網の構築を進めてきたが、点ではなく面で地域を押さえ、「領民の生活ごと守っていく」という初代早雲以来の理念を実践しているのを忘れてはならない。

 かくして北条氏を滅ぼしたい秀吉と、「和戦両様」の構えを取りつつ、有利な条件で臣従を勝ち取ろうとする氏政の間で駆け引きが続く。その結果、真田昌幸との間でこじれていた上州沼田領問題の裁定を秀吉に仰ぐという形で、双方は手打ちとなる。

 天正17年春、めでたく沼田領問題も解決し、7月には、真田方が占拠していた沼田城が北条方に明け渡された。昌幸には名胡桃(なぐるみ)領1万石が残された。ところが10月、北条氏の家臣が名胡桃城を奪取する。これに秀吉は激怒し、北条氏は討伐を受けることになった。かくして小田原合戦が始まり、北条氏は滅亡するのだが、その詳細については、北条氏研究者である下山治久氏の『小田原合戦』(角川書店)や森田善明氏の『北条氏滅亡と秀吉の策謀』(洋泉社)をお読みいただきたい。
 氏政は軍事的手腕では家康に及ばないものの、外交・内政両面では家康を上回り、北条氏を戦国最大級の大名へと躍進させた(230万〜280万石)。
 それではなぜ、氏政は北条氏を滅亡に導いてしまったのか。
 その理由を強いて探せば、氏政は何事にも慎重で、どんな場合も手堅く事を進めすぎるところがあり、ここ一番の果断に欠けていたからだろう。先週冒頭での逸話にも通じるのだが、氏康や家康の持っていた「思い切りのよさ」が、氏政に少しでもあれば、滅亡という最悪の事態からは免れられたのではないだろうか。

 人に一長一短があるのは仕方ないとしても、戦国大名や企業経営者ともなれば、自分の短所を是正する努力をせねばならない。氏政は慎重で石橋を叩(たた)いても渡らない性格が災いし、ジリ貧状態になって没落した。飯にかける汁は、やはり先々まで考えてかけるべきなのだ。
次回「天草四郎」は8月6日に掲載します。
【プロフィル】伊東潤
 いとう・じゅん 昭和35年、横浜市生まれ。早稲田大卒業後、外資系IT企業勤務、コンサルタントなどを経て、平成19年に「武田家滅亡」で文壇デビュー。25年、「巨鯨の海」で山田風太郎賞受賞。
 ※本連載の完全版は月刊「J−novel」(実業之日本社)で連載中です。


2015.07.16 産経新聞より
(http://www.sankei.com/life/news/150716/lif1507160015-n1.html)

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コメント(1件)

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最後の詰めが甘かったかもね。
井出浩司
2016/02/28 22:46

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