モノトーンの肖像画

アクセスカウンタ

zoom RSS 【石野伸子の読み直し浪花女】〜川端康成の魔界(6)反橋の終末感を生んだ「衝動買い」癖…古美術に大借金

<<   作成日時 : 2015/04/25 22:04   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 3

 産経新聞WESTで記者の石野伸子さんが川端康成についての素晴らしいコラムを連載しています。

 「住吉」連作は、川端作品の中でとくに人気のある作品ではない。
 ちょっと古めかしい文体。しかも物語は、梁塵秘抄を皮切りに与謝蕪村、浦上玉堂などの文人画、あるいは鎌倉、室町などの書や歌の世界をたゆたいながらゆったりと進み、さっと読みにくい。
 しかし、三島由紀夫はこの作品を高く評価した。新聞社の求めに応じて川端作品ベストスリーを挙げた際、「反橋連作」としてこの作品を取り上げた(昭和30=1955=年4月11日付毎日新聞)。他の2作は「山の音」と「禽獣」。しかし、「反橋連作」への言及が断トツに多い。
 「王朝の古典に近づいて何ものかを吸収した近代作家はかなりあるが、中世文学の秘められた味はひ、その絶望、その終末感、その神秘、そのほのぐらいエロティシズムを本当にわがものにした近代作家は、川端氏一人であらう」
 この連作は「半切の茶掛のような味の名品」であると評すると同時に、戦後のあわただしい時期にこれらを書いたことは「氏の精神の異様な孤独をうかがわせる」とも書いている。
 同時期に書かれ、いまでも人気の高い「山の音」の母胎はこの連作にあり、「山の音から反橋の連作を通じてはじめて古典の血脈にふれ、日本文学の伝統に足を踏まへた。思へば、敗戦は若い世代のみか、かうした年齢の作家にとっても自己変革の機会だったのである」
 作家自身もそれは自覚している。「住吉」連作を書き始めた昭和23年はかぞえ50歳の年。50歳を記念して刊行された全集第1巻のあとがきで書いている。
 「日本の敗北が私の五十歳を蔽ふとすれば、五十歳は私の生涯の涯(はて)であった。私は敗戦を涯としてそこから足は現実を離れ天空に遊行するほかなかったやうである」
 そうして、川端の精神は孤高の世界を自在に飛び回る。「国破れて山河あり」。日本の美の伝統を継ごうという願望は、古美術収集に向った。

 浦上玉堂「凍雲篩雪図(とううんしせつず)」、池大雅(いけのたいが)と与謝蕪村(よさぶそん)の合作「十便図十宜図(じゅうべんじゅうぎず)」の国宝作品をはじめとして、古美術から現代画家までを含む川端の美術コレクションは有名だ。
 川端がいつごろから古美術にひかれるようになったかは不明だが、昭和22年10月4日に国宝「十便図十宜図」を入手したころから本格化したことは間違いない。門司在住の人が手放すというので、画商が九州まで行って入手した。その際、画商が下関から川端の自宅のある鎌倉まで長時間の汽車中、決して座席にも網棚にも置かず自分の膝に抱き通して持参したと聞き、古美術に対する敬虔さを学んだと書いている。
 「反橋」はそれからわずか1年後の作品だが、すでに川端は相当な蒐集家になっている。作中にはおびただしい数の古美術品が出てくるが、文中の主人公同様、作家もほとんどを手中にしていたらしい。スーチン、池大雅、中国の古い石仏、モジリアニのデッサン、将軍義政・義尚の歌切れ。
 夫人の川端秀子さんが書いた「川端康成とともに」(新潮社)によれば、戦後の混乱期、財産税の重圧もあって戦前からのコレクターが手放した名品傑作がどっと世に出回ったころから、康成が美術展を見たり、美術商に会ったりする時間がぐんと増えた。家でも何でも買い物が大好きで、欲しいとなると前後の見境なく衝動買いする康成のこと。「絵が買いたくて、そのために仕事をしようと思い立ったのか。23年からはぐんと創作の量がふえている」と書いている。
画像
ノーベル賞授賞式のため出発する川端康成と秀子夫人=昭和43(1968)年10月6日、羽田空港

 とりわけ昭和24年、「凍雲篩雪図」を手に入れたときのエピソードは有名だ。かねて持ち主の家まで見に出かけたほど執心した絵が売りに出たことを旅先の京都で知る。康成はすぐに夫人にあて銀行から20万円を借りるよう指示を出す一方、大阪の朝日新聞社に出かけて10万円の前借りを頼む。応対に出た30代のデスクの給料が千何百円という時代の10万円。しかし、「川端さんが書くなら損はない」と即決したというから当時の新聞社も太っ腹だ。
 こうして手に入れた逸品を愛玩し、審美眼と感覚を養った。そしてそれらを作中に落とし込む。「住吉」連作はそうして生まれた。

 「美術品、ことに古美術を見てをりますと、これを見てゐる時の自分だけがこの生につながってゐるやうな思いがいたします」(「反橋」)
 さらに作家の魂は自身の体験と結びつき、魔界へと入っていく。   =続く

*2015.02.23 産経新聞関西版より
(http://www.sankei.com/west/news/150223/wst1502230034-n1.html)

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
ひょっとしたら、宇野浩一郎になったかもしれなかったね。
井出浩司
2015/04/27 06:03
ひょっとして、宇野浩一郎になったかもしれなかったね。
井出浩司
2015/04/27 06:04
ひょっとして、宇野浩一郎になったかもしれなかったね。
井出浩司
2015/05/01 09:47

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文

天気予報


コアラのマーチ


AKB48ブログ集

© AKB48ブログ集
【石野伸子の読み直し浪花女】〜川端康成の魔界(6)反橋の終末感を生んだ「衝動買い」癖…古美術に大借金 モノトーンの肖像画/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる