モノトーンの肖像画

アクセスカウンタ

zoom RSS 【石野伸子の読み直し浪花女】〜川端康成の魔界(5)日本の美しさ以外、一行も…戦後を信じぬ“孤児”が反

<<   作成日時 : 2015/04/18 15:38   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 1

産経新聞WESTで記者の石野伸子さんが川端康成についての素晴らしいコラムを連載しています。

 川端康成の40代は昭和15(1940)年から23年にかけて。日本は戦争に突き進み、敗戦を経験した冬の時代で、川端康成にとっても生涯の谷の時代だったといえる。
 しかし、谷間に静かにたたずんで自己変革をなしとげ、戦後の旺盛な執筆活動につなげた。そこがノーベル賞作家、川端康成のすごいところだ。
画像
ノーベル賞授賞式にお祝いにかけつけた女優、岸恵子と=昭和43(1968)年

 40代に入るころ、川端はすでに文壇の中核にいたが、時代の政治とは微妙に距離を置いていた。非常時の出版統制で作品発表の機会も減り、軽井沢の別荘のひとつを売却するような暮らしではあったが、自宅を構えた鎌倉の暗く静まり返った夜空や山々をながめながら、過去の文学書や古い仏教書を集め読みふけった。戦後、発表した作品の中で当時の思い出をこう書いてる。
 「人工の明りをまったく失って、私は昔の人が月光に感じたものを思った。空襲のための見廻りの私は夜寒の道に立ち止まって、自分のかなしみと日本のかなしみとのとけあふのを感じた」(「天授の子」)
 とりわけ、源氏物語にのめりこんだ。燈火管制の暗い家で、また東京への往復の横須賀線の中で、古い木版の「湖月抄本源氏物語」をよみふけった。紫式部が石山寺に参詣し琵琶湖の月をみながら書き始めたという伝承から「湖月」の名がついた和本。戦時色が強い電車の中で王朝の恋物語を読む。それは、時勢に反抗する皮肉まじりの行為でもあったが、それに増しての恍惚(こうこつ)をもたらした。
 「電車のなかでときどき源氏に恍惚と陶酔してゐる自分に気がついて私は驚いたものである。電車と自分との不調和だけでも驚くにあたひしたが、千年前の文学と自分との調和により多く驚いたのだった」(「哀愁」)
 川端は源氏物語の何に同調したのか。
 「源氏物語は藤原氏をほろぼしたが、また平氏をも、北条氏をも、徳川氏をもほろぼしたといふ風に考へてみたことがあった。少なくともそれらの諸氏がほろびるのにこの一物語は無縁ではなかったとは言へるだらう。今度の戦争中や敗戦後にも心の流れに源氏物語のあはれを宿してゐた日本人は決して少なくないだらう」
 祖国の滅亡を予感させる時代の中だからこそ深く感得した源氏物語の「あはれ」。

 「敗戦後の私は日本古来の悲しみのなかに帰ってゆくばかりである。私は戦後の世相なるもの、風俗なるものを信じない。現実なるものもあるひは信じない」(「哀愁」)
 この文章は昭和22年に書かれた。同時期、川端康成は親しい作家仲間や大事な知人を相次いで失っている。そこでも同様の言葉を発した。
 「戦争が終わって、私は昔からの日本のあはれに沈みゆくばかり(略)私はもう死んだ者として、あはれな日本の美しさのほかのことは、これから一行も書かうとは思はない」(島木健作追悼)
 「僕は日本の山河を魂として君の後を生きてゆく」(横光利一弔辞)
 そして、昭和23年3月、大恩人である菊池寛が死んだ。
 「住吉」連作は、そんな戦後の川端の変革を体現した。日本のあはれに深く同調した川端は自身のあはれに引き寄せ物語を紡ぐ。
 きっかけはその年の春、大阪を訪ねたことだった。東大の後輩で文学志望の青年、石浜恒夫の家は大阪・住吉にあった。後にノーベル賞授賞式にも随行するほど親しい付き合いをした石浜だが、彼の家の離れに川端とも知己のある作家、藤沢桓夫が住んでおり、彼の書斎で、亡くなったばかりの菊池寛の色紙を見て驚く。
 「仏は常にいませども現(うつつ)ならぬぞ哀れなる、人の音せぬ暁にほのかに夢に見え給ふ」
 梁塵秘抄にある一節。菊池は藤沢をたずねたとき請われるままに揮毫(きごう)したという。あの現世的な菊池寛が、内面の孤独を表す言葉をそらんじて書いた。そのことに川端は心を打たれた様子だったと後に石浜は書いている。翌日には近くの住吉大社を詣でた。

 そこで得たインスピレーションが「反橋」につながる。半年後の昭和23年10月に発表された作品の出だしは、そのときの体験がそのまま写し出されている。菊池寛は主人公の友人・須山となり、「悪行」をともにした存在として作中で大きな役割を果たす。
 住吉連作では源氏物語にも言及した。「源氏物語は孤児の物語である」。源氏物語は川端の孤児感覚とも深く響き合っていたのだ。   =続く

*2015.02.10 産経新聞関西版より
(http://www.sankei.com/west/news/150210/wst1502100052-n1.html)

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
岸恵子、綺麗だね。
井出浩司
2015/04/18 20:28

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文

天気予報


コアラのマーチ


AKB48ブログ集

© AKB48ブログ集
【石野伸子の読み直し浪花女】〜川端康成の魔界(5)日本の美しさ以外、一行も…戦後を信じぬ“孤児”が反 モノトーンの肖像画/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる