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zoom RSS 【石野伸子の読み直し浪花女】〜川端康成の魔界(4)少女を幾人か犯す…「反橋」夢うつつ行きつつ連作

<<   作成日時 : 2015/04/12 14:49   >>

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 産経新聞WESTで記者の石野伸子さんが川端康成についての素晴らしいコラムを連載しています。

 「反橋」(そりはし)は大阪市住吉区にある住吉大社の橋が舞台となっている短編だ。昭和23(1948)年10月、「手紙」と題して「風雪別冊」に発表された。以後、「しぐれ」(「文芸往来」昭和24年1月)、「住吉」(「個性」昭和24年4月、原題は「住吉物語」)と3カ月ごとに書き継がれ連作の形をとっている。

 「あなたはどこにおいでなのでせうか」

 いずれの作品にも、この問いかけ文が、作品の冒頭と文末に置かれている。夢うつつを行き交うような文体で、その後の川端文学の魔界に誘うような独特の世界を作り上げている。
 「反橋」連作、あるいは「住吉」連作と呼ばれる。
 「反橋」は神社正面の池にかけられた大きなアーチ形の橋。太鼓橋とも呼ばれ住吉大社の象徴ともなっている。石づくりの橋脚は豊臣秀吉の側室、淀君が奉納したといわれる由緒ある場所だ。
画像
「住吉」連作の舞台となった反橋。渡るだけで「おはらい」になるという信仰がある=大阪市住吉区の住吉大社(門井聡撮影)

 ここで、主人公の「私」は5歳のとき母親に手を引かれて橋を渡りつつ、衝撃の事実を告げられる。

 「この橋を渡れたら、いいお話を聞かせてあげるわね」

 「どんなお話?」

 「大事な大事なお話」

 「可哀想なお話?」

 「ええ、可哀想な、悲しい悲しいお話」


 なんと母は本当の母でなく、私は母の姉の子で、その本当の母はついこの間死んでしまったという話だった。
 「私の生涯はこの時に狂ったのでありました」
 そして、「私」は自分の出生が尋常のものではなかろうと疑い、育ての母へのゆがんだ愛に苦しみ、「悪行」の果て、50代を迎えたいま、死期を迎えもんもんと自分の人生を自問自答している。
 「悪行」とは何か。それが「しぐれ」「住吉」と続く連作の中で切れ切れに明らかにされていく。

 育ての母に「悪心」を募らせ無理難題を言っては困らせたこと。その母が17歳で嫁入りしたと知って早い結婚によこしまな嫉妬を覚え、「十七より下の少女を幾人か犯すようなこと」をしたこと。青年期には友人・須山とともに女を買いあさり、双子の娼婦を相手に官能が麻痺する経験を重ねたこと。
 「私」は尾形乾山のすずりや池大雅の書画、あるいは吉川霊華の絵などを手元に置き、古美術と対話するような生活環境にありながら、過去の「悪行」に苦しんでいる。それは育ての母と、そっくりだったという産みの母との周りをめぐって堂々めぐりを繰り返す。
 「あなたはどこにおいでなのでせうか」
 この問いかけの「あなた」とは誰なのか。生母か、継母か、あるいは2人を合わせた永遠の母なるものか、それとも普遍的な存在としての仏なのか。
 いかようにも読めるが、いずれにしても生死のわからぬ相手に、苦悩と絶望の底から救いを求めるかのように呼びかける様子が哀歓を呼ぶ。また、随所に過去の名品や物語(ここでは中世の継母物語である「住吉物語」)がはさみこまれ、ストーリーに深みを与えている。
 「美術品、ことに古美術を見てをりますと、これを見てゐる時の自分だけがこの生につながってゐるやうな思ひがいたします。さうでない時の自分は汚辱と傷枯の生涯の果て、死の中から微かに死にさからってゐたに過ぎなかったやうな思ひもいたします」(「反橋」)
 実は川端康成は22年後の昭和46年11月、突如この「あなたはどこにおいでなのでしょうか」を冒頭に置いた「隅田川」を「新潮」に発表した。登場人物も物語の展開も前の3作と連動しており、「住吉」連作の最終章と読める。この作品は川端康成が生前に発表した最後のものともなった。その意味でも、この連作は作家にとって重要な位置を占めていたと想像される。

 「戦争中から戦後へかけ、氏は日本の古典の世界に深く沈潜するようになった。源氏物語に没入し、物語のあわれが自分のなかに強く存在していることを思うようになった。伝統の自覚であるが、伝統主義ではない。日本古来の悲しみのなかに帰ってゆくという決意、選択だ。そのような転換期を代表する作品の一つが反橋連作である」
 と山本健吉は書いている(昭和34年・近代文学鑑賞講座)。
 同時に「ここから、康成の魔界は覚醒した」と川端文学研究者の森本穫さんは昨年まとめた大著「魔界の住人川端康成」で断言した。
 『住吉』連作を嗤矢とし、『山の音』『千羽鶴』を経て『みづうみ』『眠れる美女』へと続く川端文学最高の連峰。魔界文学。
 戦争中の川端康成に何があったのか。   =続く

*2015.01.28 産経新聞関西版より
(http://www.sankei.com/west/news/150128/wst1501280045-n1.html)




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コメント(1件)

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複雑な家庭だったんだね。
井出浩司
2015/04/12 22:03

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