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zoom RSS 【石野伸子の読み直し浪花女】〜川端康成の魔界(3)あの「伊豆の踊子」生んだ聖少女 

<<   作成日時 : 2015/04/05 15:13   >>

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 産経新聞WESTで記者の石野伸子さんが川端康成についての素晴らしいコラムを連載しています。

 川端康成は、16歳で祖父し天涯孤独の身となった。親類もあり、川端の将来のために残された資産をどう管理するかという親族会議が開かれ資料を残す環境にあったが、引き取られた母方の親類宅は半年で出た。
 以後は茨木中学の寮で暮らし、3年後、茨木中学を卒業してからは一高受験のため上京、それからは故郷の大阪に再び住むことはなかった。
 そんな孤独の中で文学への芽は育まれた。小説家をめざしたのは中学時代で、本を次々買い込んでは多額の支払いに苦しむほど本の世界に夢中になった。上京後は友人たちに刺激され、投稿なども増えた。本格的な執筆活動は東京帝国大学英文科に進んでから。東大生を中心に断続的に刊行されていた同人雑誌「新思潮」の第6次発行人となり、2号に発表した「招魂祭一景」が文壇の各方面から高い評価を得た。
 大正12(1923)年、菊池寛によって創刊された「文芸春秋」の編集同人になり、この年刊行された「文芸年鑑」には名前が載って名実ともに文士の仲間入りをする。川端康成24歳。
 順調な歩みと見えるが、この間に伊豆への旅、伊藤初代との恋愛・婚約・破談事件があり、川端本人にとっても、川端文学ファンにとっても重要な出来事が起きている。
 「伊豆の踊子」は大正15年、「文芸時代」に発表した作品だが、そのもととなった体験は大正7年、19歳の秋、伊豆に出かけたひとり旅だった。旅芸人の一行と知り合い、まだ幼い少女であった踊り子にほのかな愛情を抱く青春物語は、何度も映像化され長く愛されてきた川端の出世作だ。
 この旅で2泊した湯ヶ島の湯本館には以後、10年ばかりたびたび長逗留(とうりゅう)をすることになる。何のために伊豆に旅をし、またそこで何を得たか。「ちよ」「湯ヶ島での思ひ出」をへて「伊豆の踊子」に結実した物語を読めば了解できる。

 主人公は20歳の一高生。湯ヶ島への旅すがら出会った旅芸人の一行と顔見知りになり、一緒に旅をする。中に、黒目がちの大きな目をした踊り子がいて、主人公は心ひかれる。彼女が連れにつぶやく声が耳に入る。
 「いい人ね」「そうはそう、いい人らしい」「ほんとにいい人ね、いい人はいいね」
 それを素直に受け止める主人公。
 「晴れ晴れと眼を挙げて明るい山々を眺めた。瞼(まぶた)の奥が微かに痛んだ。二十歳の私は自分の性質が孤児根性で歪んでいると厳しい反省を重ね、その息苦しい憂鬱に堪え切れないで伊豆の旅に出て来ているのだった」
 かたくなな青年の心が汚れなき少女の存在によってほぐれていく。万人の心を打つ名場面だが、現実にはことはそう簡単に運ばなかった。
 伊豆への初めての旅から帰ってきたころ、川端康成は恋をする。一高の寮近くにあったカフェ勤めをしていた少女・伊藤初代。東大2年になった大正10年、川端は仲間たちに初代との結婚宣言をする。
 当時、初代はカフェをやめて故郷の岐阜に帰っており、友人とともに岐阜に出向いた川端は初代と会って好感触を得た。さらにその年の10月には再び学友の三明永無の付き添いで岐阜を訪ね、「結婚」の同意を得る。翌日には地元の写真館で3人で記念撮影をしている。
画像
伊藤初代と結婚の約束をし記念撮影する22歳の川端康成。右は仲介した友人。直後に破局し川端を苦しめた(島根県大田市の瑞泉寺・三明慶輝氏提供)

 東京で新居の準備を整え、初代の上京を待つばかりだった川端の元に、思いもかけない手紙が届く。
 「私は今、あなた様におことわり致したいことがあるのです。私はあなた様とかたくお約束を致しましたが、私には或る非常があるのです。それをどうしてもあなた様にお話しすることが出来ません。その非常を話すくらゐなら、私は死んだほうがどんなに幸福でせう」
 驚愕(きょうがく)した川端は初代に会いにでかけるが、かたくなに心を閉ざした相手とはすれ違うばかり。憔悴(しょうすい)した初代の姿に「自分との婚約がこんなに相手を苦しめるのか」と川端は打ちのめされる。

 この出来事を川端は「篝火」(かがりび)「非常」など初期作品に残しているが、この「非常」の手紙が昨年、発見されて話題になったのは記憶に新しい。
 「初代とのことは川端の青春に濃い影を落とし、長く苦しめた。聖なる美しい少女を待ち続ける気持ちは川端の根底に深く横たわり、また敗戦の深い悲しみが加わって川端を新たな世界にいざなっていった」と川端康成学会常任理事の森本穫さんはみる。
 それこそ「魔界」だったのだ。   =続く

*2015.01.15 産経新聞関西版より
(http://www.sankei.com/west/news/150115/wst1501150032-n1.html)

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お友達に比べて、はるかにイケメン。22歳で結婚ですか。
井出浩司
2015/04/05 22:45

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