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zoom RSS 【石野伸子の読み直し浪花女】〜川端康成の魔界(2)ぼっち、寂寥感…中3で天涯孤独 祖父と2人きり生活

<<   作成日時 : 2015/03/29 16:52   >>

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 産経新聞WESTで記者の石野伸子さんが川端康成についての素晴らしいコラムを連載しています。

 川端康成(かわばた・やすなり)は明治32(1899)年6月14日、大阪市北区で開業医・川端栄吉とゲンの長男として生まれた。4歳年上の姉が1人いた。
 もともと父親は、大阪府三島郡豊川村宿久庄(現茨木市宿久庄)の出身。川端家はそこで代々庄屋をつとめる大地主だった。康成の祖父・三八郎の代に事業などの失敗でほとんどの山林土地を手放し、父親は東京で医学を学び、大阪市中で開業していた。
 しかし、康成に安寧な幼少期は訪れなかった。父が胸を病み1歳のとき他界。母親の実家に身を寄せるが、その母も翌年他界。康成は父方の祖父母に、姉は母の妹の婚家に引き取られることになる。
 一時は先祖伝来の土地を離れていた祖父母だが、跡取りの孫と過ごすため宿久庄に帰り、かつての屋敷とは比べようもない小さな家を建て、康成はそこでかぞえ16歳まで過ごした。幼少期の康成はひよわでかんしゃく持ち、祖母は真綿でくるむように育ててくれたと後に書いている。しかし、その祖母も6歳のとき他界。以後、康成は祖父と2人きりの生活を8年間続けることになる。
画像
川端康成が祖父母と暮らした茨木市宿久庄の家。昭和40年ごろ撮影。その後、建て替えられた(茨木市立川端康成文学館提供)

 小学校時代は病弱で欠席がちだったが、成績は優秀。大阪府立茨木中学(現府立茨木高校)にはトップ級で合格。山あいの家から市中の中学まで6キロメートルを歩いて通学するようになり、虚弱体質が改善されたという。一方の祖父は白内障からほぼ失明状態になり、大正3(1914)年5月25日75歳で死去。親類に引き取られていた姉も5年前に亡くなっており、康成はかぞえ16歳、中学3年の春に天涯孤独の身となった。
 「十六歳の日記」はこのときの祖父の看取り日記だ。記述は5月4日、死の3週間前から始まる。

 中学校から家に帰ったのは5時半頃。門口の戸は訪問客を避けるためにしまっている。祖父は唯1人寝ているのだから、人が来ては困る。「唯今。」と言ってみたが、答える者もなく静まり返っている。寂しさと悲しさとを感じる。祖父の枕元の一間のところで、「唯今。」 三尺に近づき、きつい調子で、「今戻って来た。」 耳へ五寸で、「今戻って来たんや。」
 「おお、そうか。朝からししやって貰わんので、うんうん言うて待って、今また西向きに寝返りすんので、うんうん言うてたんや。西向かしてんか。な、おい。」


 以後5月16日まで、意識混濁の中で食べることも、排尿することもままならず暗闇の世界で身もだえする祖父の様子を、冷静な目で凝視し詳しく記述している。

 「ああ、痛い、いたたったあ、いたたた、あ、ああ」おしっこをする時に痛むのである。苦しい息も絶えそうな声と共に、しびんの底には谷川の清水の音。「ああ、痛たたった。」堪えられないような声を聞きながら、私は涙ぐむ。

 たった1人の肉親の末期の姿。それをいたたまれぬ思いで見つめる孫。淡々とした描写の中に寂寥感があふれ出る。
 川端康成はこの日記の存在を忘れていたが10年後、かぞえ27歳のとき発見する。祖父の死で天涯孤独となった康成は家を引き払い、親類の家や寮を転々としながら中学を卒業し、以後は東京に出て一高、東大へと進んだが、27歳のとき、親類に預けていた荷物を整理する必要に迫られ、父親の古いカバンの中からこの日記を発見した。
 川端はすでにいくつか作品を発表し新進作家となっていた。若き日の文章を、多少の説明を加え、あとがきを添えて、文芸雑誌に発表した。その心境を評論家の山本健吉はこう解説する。
 「氏は新感覚運動の一翼を担いながらたまたまこの日記を発見し、より根源からの生命的表現がそこに脈売っているのを見て、われながら驚嘆し、感動する。この日記は氏が手さぐりで掴んだ最初の文学的表現ではあったが、十一年後にそれを再発見したとき、それは表現に対する一つの確信を氏にもたらしたのである」(昭和34年・近代文学鑑賞講座13川端康成)

 同時に、この作品に魔界の淵源、ルーツを見るのは長年川端文学を研究してきた森本穫さんだ。
 「世間と隔絶し、祖父と2人だけで過ごしてきた少年の孤絶感こそ、康成の生涯を通じて、その根底に流れつづけた基本感情であると考える。このかなしみをともなった孤絶の意識こそ、ずっとのちの太平洋戦争後において、康成の特異な文学世界−魔界を形成する根底の意識となるのである」(平成26年「魔界の住人」)
 魔界に踏み込むには、いましばらくの時間がかかる。   =続く

*2015.01.02 産経新聞関西版より
(http://www.sankei.com/west/news/150102/wst1501020013-n1.html)

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
大変な時期を過ごしたんですね。僕なんか親が死ぬ時でもブログで1行だね。おじい様の描写がすごいです。リアル。
井出浩司
2015/03/29 20:11

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